グランドマスター:概要とカンフーの意味

ウォン・カーウァイ『グランドマスター』(王家衛『一代宗師』/Wong Kar-wai, The Grand Master) (c) 2013 Block2Pictures Inc. All Right Reserved.作品紹介
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グランドマスター

グランドマスターはウォン・カーウァイ監督の映画です。2013年に公開されました。

1972年。叶問病逝香港、一生伝灯無数。咏春拳因他而盛从此伝遍世界。(1972年。イップマン<叶問/葉問>は香港で病死、生涯で無数の弟子を育てた。咏春拳<詠春拳>は彼のお陰で世界中に伝わった。)

ウォン・カーウァイ監督『グランドマスター』香港・中国、2013年
原題「一代宗師」、英題「The Grandmaster」
Copyright (c) 2013 Block2Pictures Inc. All Right Reserved.

キャスト

  • 葉問(イップ・マン) :トニー・レオン
  • 宮若梅(ゴン・ルオメイ) :チャン・ツーイー
  • 一線天(カミソリ) :チャン・チェン
  • 馬三(マーサン) :マックス・チャン
  • 宮宝森(ゴン・パオセン) :ワン・チンシアン
  • 張永成(チャン・ヨンチェン) :ソン・ヘギョ
  • 丁連山 :チャオ・ベンシャン
  • 三江水 :シャオ・シェンヤン
  • 陳華順 :ユエン・ウーピン

スタッフ

  • 監督:ウォン・カーウァイ
  • 脚本:ゾウ・ジンジ、シュー・ハオフォン、ウォン・カーウァイ
  • 撮影:フィリップ・ル・スール
  • 音楽:梅林茂、ナタニエル・メカリー
  • 編集:ウィリアム・チャン
  • 武術指導:ユエン・ウーピン
  • 美術・衣装デザイン:ウィリアム・チャン、アルフレッド・ヤウ

感想

この映画は現実のカンフー(葉問)が映画のカンフー(李小龍)に転換する時代を描いた作品です。一つの時代が終わったことを感じました。周知のように、この映画は、ブルース・リー(李小龍)の実際の師匠だったイップ・マン(葉問)を取り巻く、厳しい時代の中国カンフー史(功夫史)が題材です。

チャン・ツーイーが円運動に沿った八卦掌の練習をしています。

ウォン・カーウァイ『グランドマスター』 (c) 2013 Block2Pictures Inc. All Right Reserved.

極寒でも映像は熱いです。雪が綺麗でした。チャン・イーモウの散る花と対照的かな、この映画の雪は黒を背景に白。厳しい時代にふさわしい…。映画を観終わった数時間、論文には無理だけど研究ノートくらいに書きたいという焦燥感と熱情が冷めませんでした。

 

この映画は、清朝・中華民国・日本帝国・中華人民共和国、そして家族史を交えた中国近代史であって、カンフー映画ではありません。カンフーはあくまでも題材です。抗日戦争のドラマは今の中国で流行っていますが、描かれる構図は中日対立と中国内の国民党・共産党の対立の2点です。

しかし、中国のドラマには決して出ない1つの国があります。その偽満州国をグランドマスターは捉えました。愛新覚羅溥儀が映像、画像、肖像画の3つの表現方法で映し出されていました。

クローズ・アップの手法

話は変わって、この映画は王家衛作品らしく、クローズ・アップの手法、特に雨や雪の描写が抜群です。

大雨のなか道に叩きつけられて雨粒が跳ねあがっている場面は「花様年華」でもクローズアップされていました。

雨が道に叩きつけられて跳ねています。

ウォン・カーウァイ『グランドマスター』 (c) 2013 Block2Pictures Inc. All Right Reserved.

このように映像美とカンフーの両方が楽しめます。撮影はいつものクリストファー・ドイルじゃないんですが。

あと、妓楼の映像ではインテリアや旗袍(チーパオ)がばっちり楽しめます。

この映画の旗袍が平肩連袖と呼ばれる古い型で、カンフーをするのに十分な運動性を持っていることは「連袖旗袍の動きやすさ」で述べました。また、アクセサリーも含め衣装からみた『グランドマスター』の感想は妻が「『グランドマスター』の旗袍」に書いています。いずれもご参照ください。

ウォン・カーウァイ『グランドマスター』 (c) 2013 Block2Pictures Inc. All Right Reserved.

物語が繋がらない、登場人物同士が遭遇しない、といった特徴が王家衛の映画にはよくあります。本作品では主演のトニー・レオン(梁朝偉)とチャン・ツーイー(章子怡)は遭遇しますが、チャン・チェン(張震)と梁朝偉は遭遇していません。

主人公のイップ・マンを演じるのはトニー・レオンですが、描写時間はチャン・ツーイーと同じくらいじゃないでしょうか、チャン・ツーイーの映画だとも言えますし、そうでないとも言えます。そして、チャン・ツーイーを軸に見ると、人間関係が全て繋がるのがこの映画の面白い所。主人公を写しながら、別の人間が全てを繋げているわけです。

トニー・レオンとチャン・ツーイーが戦闘中に接近した場面です。

チャン・ツーイーとトニーレオンが戦闘中の接近。ウォン・カーウァイ『グランドマスター』(王家衛『一代宗師』/Wong Kar-wai, The Grand Master) (c) 2013 Block2Pictures Inc. All Right Reserved.

現実のカンフーから映画のカンフーへ

ブルース・リーのファンとして私は認めるのが辛いのですが、冒頭でも書きましたように、この映画を見て痛感したのはブルース・リーによって功夫映画はかなり広まった一方で、1960年代末の香港にも中国大陸にも、そして世界中にも、既に功夫は無くなっていたと感じるのです。

「窮しても日本の米は食わん」とイップ・マンが述べた時、これは人生を語っています。イップ・マンは功夫に命を賭けました。

これに対し弟子のブルース・リーは映画に命を賭けました。師匠のイップ・マンから弟子のブルース・リーへ。この世代交代は、現実功夫の消滅と映画功夫の誕生と換言できます。次の写真のアングルは、まさにその代替を物語っています。

イップ・マン演じるオニー・レオンとブルース・リー演じる子役が重なって写真撮影に臨んでいます。

ウォン・カーウァイ『グランドマスター』 (c) 2013 Block2Pictures Inc. All Right Reserved.

登場人物のカミソリとその意味

断片的な感想になりました。最後にチャン・チェン(張震)の配役について触れておきます。彼はこの作品でカミソリ(一線天)と呼ばれる八極拳の達人役に起用されています。後にカミソリが成長したのか、理髪師に就きました。

ウォン・カーウァイの映画で張震が出演するのは「グランドマスター」で4作品目です。それまでは「ブエノスアイレス」で板前、「2046」で一瞬の出演で失恋、「若き仕立屋の恋」で裁縫師(仕立屋)、「グランドマスター」で理髪師という流れです。

板前(料理人)、裁縫師、理髪師の3職業は中国人移民(華僑)たちが最も得意としてきた三巴刀業(三刀業)です。いずれも、包丁、裁断鋏、カミソリ等、刃物を主要道具とする職業です。

ついでに「2046」で失恋したのも《切断》だという後付けの解釈を付しておきます(笑)。もとい、そもそも、王家衛の映画は移民の定住期間を描く映画だと、改めて思う次第です。

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