天使の涙:「恋する惑星」別ストーリーから独特の世界観へ
大都市に潜む殺し屋とオナニスト。同じ大都市ではしゃぎ回る無口な男と失恋女たち。5人それぞれをカップルにした退廃感漂うオムニバス的な恋物語。
二人ずつの組合わせによって、多彩ではありますがせつない恋模様が展開されています。
原題「堕落天使」、英題「Fallen Angels」
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キャスト
スタッフ
- 監督:ウォン・カーウァイ
- 脚本:ウォン・カーウァイ
- 撮影:クリストファー・ドイル
- 美術:ウィリアム・チャン
- 音楽:フランキー・チャン、ローエル・A・ガルシア
- 編集:ウィリアム・チャン、ウォン・ミンラム
みどころ
都市型人間の死、殺人・煙草・オナニー。生命の拒否。

ウォン・カーウァイ監督『天使の涙』 (c) 1999 Block2Pictures Inc. All Rights Reserved.
「恋する惑星」との関係
前作「恋する惑星」は比較的に明るくて美しく、観客と批評家の目を惹きました。
本作「天使の涙」は前作の食べ残しをあつめたような作品だと当初は思われました。また前作の繰り返しや拡張だといわれました。
ウォン・カーウァイ監督が前作も本作も香港の一面を写したかった点で両作品は似ているのは当然です。でも「天使の涙」は「恋する惑星」の反復ではない部分にこそ、本作の醍醐味があります。
実際、「天使の涙」には新しいアイデアがあり、多くの映画評論家によって議論されました。
「恋する惑星」を撮影するとき、ウォン監督は少し手探りの状態でしたが、「天使の涙」を撮影したときには作品の方向をはっきりさせ、映画の全体的な雰囲気をより美しく悲しく描きました。両作品の交換順序が違っていたら、繰り返しの印象を私たちはもてないと思います。
ウォン監督は「天使の涙」を「恋する惑星」の続編だと言ったことがあります。形式が一貫しているのはそのためです。もともと「恋する惑星」には3つのストーリーがあったといわれます。「天使の涙」は3つ目のストーリーだそうです。

ウォン・カーウァイ監督『天使の涙』 (c) 1999 Block2Pictures Inc. All Rights Reserved.
あらすじ
一つのカップル
「天使の涙」のメイン・キャストは殺し屋「ウォン」役のレオン・ライとパートナーのミシェル・リーです。だいたい二人は同じ部屋に暮らしますが、お互いに会わず、物理的に接触をしません。
彼らは単なる仕事上のパートナーか恋人なのか、見てる私たちにも登場人物同士にもわかりません。あるいは、お互いをどのように愛しているかをわかっていないだけかも知れません。

ウォン・カーウァイ監督『天使の涙』 (c) 1999 Block2Pictures Inc. All Rights Reserved.
このような気分に、殺し屋ウォンもパートナーも不安を感じているので愛について話すことはありました。しかし、殺し屋の仕事上、パートナーに情を委ねることは危険です。私見では、彼らはお互いを愛していてもお互いに知らせたくなかったというのが本音のところでしょう。
ウォン・カーウァイのモチーフである《拒まれる前に拒む》のとおり、殺し屋ウォンは拒否されたくないのでパートナーに恋を拒否します。
最終的にレオン・ライはミシェル・リーと会うことを決めましたが、最初の会合は最後の会合になります。殺し屋であるウォンは最後の仕事で命を失いました。

ウォン・カーウァイ監督『天使の涙』 (c) 1999 Block2Pictures Inc. All Rights Reserved.
ウォンの生涯で唯一癒しになったのはカレン・モク演じる女子だったのでしょう。たまたま寄ったマクドナルドで知り合った活発な女子と急な大雨の中、一緒に店を出ます。彼の精いっぱいの笑顔が苦笑という形になりましたが、映画で唯一レオン・ライの見せる笑顔でした。
別のカップル
別の男性と女性のカップルはカネシロ・タケシ(金城武)とチャーリー・ヤンです。
カネシロ・タケシは発話の苦手な少年で、幼い頃に母親を失ったエピソードが出てきます。彼は出合ったばかりのチャーリー・ヤンに恋をしました。失恋直後のチャーリー・ヤンは少しヒステリック。お喋りをして一日中、元彼の居場所を探しています。

ウォン・カーウァイ監督『天使の涙』 (c) 1999 Block2Pictures Inc. All Rights Reserved.
沈黙していたカネシロ・タケシはどこにでも彼女を追いかけますが、チャーリー・ヤンは彼を愛しませんでした。結局、カネシロ・タケシはチャーリー・ヤンの守護天使として描かれているので、最終的に彼女が昔のボーイフレンドに戻ったり、カネシロから離れたりすることは重要ではありません。
まとめ
カップルの交錯をゆっくり丁寧に振り返ると、面白い類似点も見つかります。
レオン・ライとミシェル・リーの関係は「恋する惑星」のカネシロ・タケシとブリジット・リンの関係に似ています。
ブリジット・リンは自分の愛ゆえに自分をだました男を殺しました。レオン・ライはそれほど幸運ではなく、彼は最後の殺害任務を遂行したときに彼は死亡しました。彼はミシェル・リーに傷つけられたといわれていますが、これは労働災害に分類されるものでしょう(笑)。
カネシロ・タケシは「恋する惑星」と「天使の涙」の大枠になっています。多忙な警官である金城は「天使の涙」で失語症の犯罪者になりました。この点は「恋する惑星」のフェイ・ウォンを想像させます。s
しかし、結末が違います。
カネシロは暗闇のなかでミシェルをバイクに乗せて当て所なくさまよい、「天使の涙」という悲しい映画に余韻を残しました。

ウォン・カーウァイ監督『天使の涙』 (c) 1999 Block2Pictures Inc. All Rights Reserved.
写真集
クリストファードイル『Angel Talk -「天使の涙」完全版(第3版)』プレノンアッシュ|1998/04
未公開映像やメイキング映像などにドイルのエッセイが付された写真集。
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